新たな外国人材受入れのための在留資格の創設
外国人労働者の受け入れ拡大を目的とした新在留資格「特定技能」を盛り込んだ改正出入国管理法が、2019年4月1日に施行されました。深刻な人材不足に対する対策として、実習生ではなく労働者として外国人を受け入れる制度を始めることとなりました。5年間で最大34万5000人を受け入れる計画となっています。
外国人が日本において就労するためには、就労が許される在留資格を取得しているか、または取得できるのかが問題となります。
就労可能な在留資格(活動制限あり)
在留資格 |
該当例 |
外 交 |
外国政府 大使、公使等 |
公 用 |
外国政府公務従事者等 |
教 授 |
大学教授等 |
芸 術 |
作曲家、画家等 |
宗 教 |
宣教師等 |
報 道 |
報道機関記者、カメラマン等 |
高度専門職 |
ポイント制高度人材 |
経営・管理 |
企業経営者等 |
法律・会計業務 |
弁護士、公認会計士等 |
医 療 |
医師、看護師等 |
研 究 |
研究者等 |
教 育 |
中学・高校等の語学教師等 |
技術・人文知識・国際業務 |
技術者、通訳等 |
企業内転勤 |
外国法人からの転勤者 |
介 護 |
介護福祉士 |
興 行 |
俳優、歌手、ダンサー等 |
技 能 |
調理師、操縦士等 |
技能実習 |
技能実習生 |
特定技能 |
特定産業分野の従事者 |
活動制限のない在留資格
在留資格 |
該当例 |
永住者 |
永住許可を受けた者 |
日本人の配偶者等 |
日本人の配偶者、子等 |
永住者の配偶者等 |
永住者の配偶者、子等 |
定住者 |
日系3世、残留孤児等 |
指定される活動によって就労の可否が分かれる在留資格
「資格外活動の許可」を得れば、1週28時間以内の就労が可能になります。
就労できない在留資格
在留資格 |
該当例 |
文化活動 |
日本文化の研究者等 |
短期滞在 |
観光客、会議参加者等 |
留学 |
大学、専門学校等の学生 |
研修 |
研修生 |
家族滞在 |
就労資格等による在留外国人の配偶者等 |
「留学」、「家族滞在」については、「資格外活動の許可」を得れば、一定の時間内(原則1週28時間以内)の就労が可能になります。「文化活動」については、「資格外活動の許可」により許可内容が個別決定されます。
在留資格「特定技能」
特定技能の在留資格に係る制度は、中小・小規模事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野(特定産業分野)において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるために創設されました。特定技能の在留資格には、特定技能1号と特定技能2号の2種類に分かれています。
※特定産業分野
人材を確保することが困難な状況にあるため外国人により不足する人材の確保を図るべき産業上の分野のことで、
介護、ビルクリーニング、素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の14分野が指定されています。
技能実習生との比較
技能実習制度は、日本で開発され培われた技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、その開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的とする制度であり、基本理念として「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と明記されています。したがって、就労を目的とする特定技能とは、制度目的が異なることとなります。
特定技能1号とは
特定産業分野において相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
相当程度の知識又は経験を必要とする技能とは、相当期間の実務経験等を要する技能をいい、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準のものをいうとされています。
在留が許可される場合には、在留期間として、1年、6月又は4月が付与されます。
技能実習2号を良好に修了しており、従事しようとする業務と技能実習2号の職種・作業に関連性が認められる場合には、技能水準並びに日本語能力水準双方について試験その他の評価方法による証明は要しないとされています。
受入れ機関又は登録支援機関による支援の対象となります。
この在留資格の取得経路としては、基本的に「技能実習」からの移行が想定されていますが、技能実習制度が存在しない「宿泊」「外食業」、あるいは技能実習制度への職種追加から間もない「介護」については、「特定技能評価試験」「日本語能力試験」の両方に合格することが、特定技能1号を取得する条件となります。
特定技能2号とは
特定産業分野において熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。
熟練した技能とは具体的には、長年の実務経験等により身につけた熟達した技能をいい、現行の専門的・技術的分野の在留資格を有する外国人と同等又はそれ以上の高い専門性・技能を要する技能であって、例えば自らの判断により高度に専門的・技術的な業務を遂行できる、又は監督者として業務を統括しつつ、熟練した技能で業務を遂行できる水準のものをいうとされています。
平成31年4月1日現在で、「特定技能2号」による外国人の受入れが可能となるのは、「建設分野」と「造船・舶用工業分野」の2分野のみで、2021年から技能評価試験の開始が予定されています。
在留が許可される場合には、在留期間として、3年、1年又は6月の在留期間が付与されます。
受入れ機関又は登録支援機関による支援の対象外です。
特定技能と技能実習
|
特定技能 |
技能実習 |
在留資格 |
特定技能1号 |
特定技能2号 |
技能実習 |
在留可能期間 |
最長5年 |
制限なし |
最長5年
(1号:1年以内
2・3号:各2年以内、) |
目 的 |
人手不足の解消 |
開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」 |
人 材 |
技能実習2号修了者
or技能水準・日本語能力試験合格者 |
技能水準試験合格者
(建設、造船・舶用工業のみ) |
技能実習生 |
採用方法 |
直接募集・斡旋機関経由 |
相手国送出機関
・監理団体経由 |
雇用形態 |
フルタイム・直接雇用
(農業・漁業は派遣受入可) |
直接雇用
|
転職可否 |
可(原則同一業務区分内) |
原則不可 |
家族帯同 |
不可 |
可 |
不可 |
特定技能外国人を受け入れる受入れ機関の義務
- 外国人と結んだ雇用契約を確実に履行しなければならない(報酬を契約どおりに支払う等)
- 1号特定技能外国人支援計画を作成※しなければならず、当該支援計画が所要の基準に適合していることが求められ、受入れ機関については、支援計画の適正な実施が確保されているものとして所要の基準に適合していること
- 1号特定技能外国人が「特定技能」の在留資格に基づく活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上又は社会生活上の支援を実施する義務があります。なお登録支援機関※に支援計画の全部の実施を委託した場合は、支援計画の適正な実施の確保に係る基準に適合しているとみなされます。
- 地方出入国在留管理局に定期又は随時の届出
※日本語で作成するほか、1号特定技能外国人が十分に理解することができる言語で作成し、その写しを交付するとともに、支援計画の内容を説明した上、十分に理解したことについて署名を得る必要があります。
※登録支援機関:受入れ機関(特定技能外国人を雇用する会社)の委託を受けて、特定技能外国人の支援計画の実施を行う機関。
受入れ機関が満たすべき基準
- 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
- 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
- 1年以内に受入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
- 欠格事由(5年以内に関係法律違反により刑罰を受けた)に該当しないこと
- 特定技能外国人の活動内容に係る文書を作成し、雇用契約終了日から1年以上備えて置くこと
- 外国人等が保証金の徴収等をされていることを受入れ機関が認識して雇用契約を締結していないこと
- 受入れ機関が違約金を定める契約等を締結していないこと
- 支援に要する費用を、直接又は間接に外国人に負担させないこと
- 労働者派遣の場合は,派遣元が当該分野に係る業務を行っている者などで、適当と認められる者であるほか、派遣先が1〜4の基準に適合すること
- 労災保険関係の成立の届出等の措置を講じていること
- 雇用契約を継続して履行する体制が適切に整備されていること
- 報酬を預貯金口座への振込等により支払うこと
- 特定産業分野ごとに特有の基準に適合すること
支援体制に関する基準として次の項目があります。これらの基準は、登録支援機関に支援を全部委託する場合には満たすものとみなされます。
- 以下のいずれかに該当すること
ア 過去2年間に中長期在留者※(就労資格のみ)の受入れ又は管理を適正に行った実績があり、かつ、役職員の中から、支援責任者及び支援担当者(事業所ごとに1名以上)を選任していること(支援責任者と支援担当者は兼任可)
イ 役職員で過去2年間に中長期在留者の生活相談等に従事した経験を有するものの中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること
ウ ア又はイと同程度に支援業務を適正に実施することができる者で、役職員の中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること
- 外国人が十分理解できる言語で支援を実施することができる体制を有していること
- 支援状況に係る文書を作成し、雇用契約終了日から1年以上備えて置くこと
- 支援責任者及び支援担当者が、支援計画の中立な実施を行うことができ、かつ、欠格事由に該当しないこと
- 5年以内に支援計画に基づく支援を怠ったことがないこと
- 支援責任者又は支援担当者が、外国人及びその監督をする立場にある者と定期的な面談を実施することができる体制を有していること
- 特定産業分野ごとに特有の基準に適合すること
※「中長期在留者」とは、出入国管理及び難民認定法上の在留資格をもって日本に在留する外国人のうち、次の @からCに該当しない人をいいます。なお、D及びEに該当する人は中長期在留者にはあたりません。
- 「3月」以下の在留期間が決定された人
- 「短期滞在」の在留資格が決定された人
- 「外交」又は「公用」の在留資格が決定された人
- @からBまでに準じるものとして法務省令で定める人(「特定活動」の在留資格が決定された、亜東関係協会の本邦の事務所若しくは駐日パレスチナ総代表部の職員又はその家族の方)
- 特別永住者
- 在留資格を有しない人
1号特定技能外国人支援計画の内容
- 事前ガイダンスの提供
- 出入国する際の送迎
- 適切な住居の確保に係る支援
- 生活に必要な契約に係る支援
- 生活オリエンテーションの実施
- 日本語学習の機会の提供
- 相談又は苦情への対応
- 日本人との交流促進に係る支援
- 本人の責めに帰すべき事由によらないで特定技能雇用契約を解除される場合の転職支援
- 定期的な面談の実施,行政機関への通報
下線部分については、外国人が十分に理解することができる言語により行うことが求められます。
特定技能雇用契約の満たすべき基準
「特定技能」在留資格の外国人と、その外国人を雇用する受入れ機関の間で締結される雇用契約のことを特定技能雇用契約といい、次の事項が適切に定められているものとして、法務省令で定める基準を満たすものでなければなりません。
- 分野省令で定める技能を要する業務に従事させるものであること
- 所定労働時間が、通常労働者と同等であること
- 報酬額は日本人が従事する場合の報酬の額と同等以上であること
- 報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用等の待遇において、外国人であることを理由とした差別的取り扱いをしていないこと
- 一時帰国を希望した場合、有給の休暇を取得させること
- 労働者派遣の対象とする場合は、派遣先や派遣期間が定められていること
- 外国人労働者が帰国旅費を負担できないときは、事業者が負担するとともに必要な措置を講ずること
- 外国人労働者の健康状況その他の生活の状況を把握するために必要な措置を講ずること
- 特定産業分野に特有の基準に適合すること
外国人労働者の労働保険・社会保険と労務管理
適用事業所で使用される外国人は、日本人と同様に労働保険(労災保険・雇用保険)と社会保険(健康保険・厚生年金保険)を適用させなければなりません。
労災保険
労働者を1人でも使用する事業であれば、適用除外に該当しない限り、当然に適用されます。(不法就労の外国人でも同様)
雇用保険
以下の要件に該当する労働者は、外国人であっても、原則として、雇用保険の被保険者となります
1週間の所定労働時間が20時間以上であること
31日以上引き続き雇用されることが見込まれること
・期間の定めがなく雇用される場合
・雇用期間が31日以上である場合
・雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
・雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合
注)当初の雇入時には31日以上雇用されることが見込まれない場合であってもその後、31日以上雇用されることが見込まれることとなった場合には、その時点から雇用保険が適用されます。
外国人の雇入れおよび離職の際には、雇用保険の被保険者であるか否かにかかわらず、その氏名、在留資格などをハローワークに届け出なければなりません。また、外国人労働者を常時10人以上雇用するときは、雇用管理の改善等に関する事項等を管理させるため、雇用労務責任者を選任しなければなりません。
健康保険
適用事業所に使用される者は、本人の意思にかかわらず、適用除外に該当する者を除いて被保険者となります。
厚生年金保険
適用事業所に使用される70歳未満の者は、本人の意思にかかわらず、当然に被保険者となります。
パートタイマー・アルバイト等でも事業所と常用的使用関係にある場合は、被保険者となります。1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上である方は被保険者とされます。
国民健康保険
3カ月を超える在留期間が決定され、住民登録をしている人は、次の人を除き、国民健康保険に加入することとなります。
- 在留期限が切れている人
- 在留資格が「短期滞在」、「外交」、「公用」の人
- 「特定活動」の在留資格のうち医療目的で滞在する人とその帯同者
- 日本と医療保険を含む社会保障協定を結んでいる国の人で本国政府からの社会保障加入の証明書がある人
- 他の健康保険に加入している人
- 他の健康保険に被扶養者として加入している人
- 生活保護を受けている人
(注)在留資格が興行、技能実習、家族滞在、特定活動で在留期間が3カ月以下で、住民登録がない人でも、
滞在が3カ月を超えることを証する書類がある人は加入できます
国民年金
日本に住む20歳以上60歳未満の方は、外国人の方を含めて国民年金に加入し、国民年金保険料を納めることが義務付けられています。
脱退一時金
受給資格期間を満たせないまま日本国内に住所を有しなくなった外国人の方のために、保険料の掛捨てを防ぐ制度です。脱退一時金の支給を受けたときは、その額の計算の基礎となった期間は、被保険者ではなかったものとみなされます。
脱退一時金支給要件
次の1から4までのすべての要件に該当すること
- 請求日の前日において、請求の日の属する月の前月までの第1号被保険者(任意加入被保険者も含む)期間
に係る「保険料納付済期間の月数 保険料4分の1免除期間の月数×4分の3 保険料半額免除期間×2分の1
保険料4分の3免除期間×4分の1」の合計が、6月以上あること。
- 日本国籍を有しないこと
- 国民年金の被保険者でないこと
- 老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていないこと
ただし、次のいずれかに該当した場合は脱退一時金を請求することができません。
- 日本国内に住所を有するとき
- 障害基礎年金などの受給権を有したことがあるとき
- 最後に国民年金の資格を喪失した日(同日に日本国内に住所を有していた人は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日)から2年以上経過しているとき
脱退一時金の制度は、厚生年金保険にも同様に設けられています。
社会保障協定
社会保障協定は、保険料の二重負担を防止するために加入するべき制度を相手国との間で調整し、また年金受給資格を確保しやすくするために、両国の年金制度の加入期間を通算するために相手国との間で締結しています
2019年9月1日現在 社会保障協定を締結(発効済)している国
ドイツ、イギリス、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、 オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国
(イギリス、中国及び韓国については二重加入防止のみで加入期間の通算はできません)
外国人材の労務管理のポイント
- 就労許可のない者、一定範囲の職の就労しか認められていない者が、許可を得ないまま又は範囲を超えて違法な状態で就労することは不法就労になるため、外国人を不法就労の状態で雇用し、働かせた場合には、事業主は不法就労助長罪に問われます(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)。したがって、定期的な在留カード・パスポートの有効性確認と在留資格の変更・更新の管理が重要となります。
- 外国人労働者が日本で働く場合には、原則として日本の法律が適用されるため、出入国管理関係法令はもとより、日本人同様に労働関係法令・社会保険関係法令・租税関係法令等を遵守することが求められます。
- 外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的な取扱いをすることはできません。言語の問題や、文化・慣習など生活面へのサポートも含め、その育成には日本人と同等以上のコストがかかるため、外国人=安価な労働力といった考え方は適切ではありません。
- 外国人労働者の採用時にも日本人の場合と同様に、賃金、労働時間その他の労働条件を書面にして明示する必要があります。トラブル防止のため、外国人労働者が理解できる言語での記載や説明も重要となります。労働契約書の作成や就業規則の周知についても同様です。
- トラブルの発生を未然に防ぐためには、外国人の生活習慣や価値観の違いを理解した労務管理が必要です。